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名古屋高等裁判所 昭和37年(ネ)165号 判決 1963年5月07日

控訴人 原告 古橋友三

訴訟代理人 野村均一

被控訴人 被告 古橋新三郎

訴訟代理人 島田新平

主文

原判決を取り消す。

控訴人の本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。昭和二四年一〇月二二日出願にかかる願書番号同年第一八、六六五号昭和二六年二月二日公告にもとずき昭和二八年四月三日被控訴人名義にて登録された第四二三、四四八号第四三類菓子「雀おどり」の商標登録は無効であることを確認する。被控訴人は右商標登録の抹消手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、立証関係は、次に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、新商標法施行法第八条の規定は商標出願により生じた権利関係につき争のない場合に限り適用されるものであつて、本件のように右権利の承継等につき抗争の存する場合にまで適用されるものではない、もしそうでないとすれば無効原因の存する権利関係が新法施行により突然無効を主張し得ないことになりかかる解釈は不当であると述べた。

被控訴代理人は控訴代理人の右主張を争つた。

証拠として控訴代理人は当審における証人宮武陽男の証言、控訴本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人は当審における被控訴本人尋問の結果を援用した。

理由

成立に争いない甲第一号証の一、二、同第二号証の二、同第四号証の一、同乙第四、五号証、同乙第九号証の一、二、同乙第一一号証の一、同乙第一五号証によると、本件で問題となつている登録商標は当事者双方の母古橋そのの出願にかかり(昭和二四年一〇月二二日出願、願書番号同年第一八、六六五号)、昭和二六年二月二日、同年第二二八八号として出願公告があり、昭和二八年三月一三日右権利の承継人たる被控訴人に対し特許庁の登録査定があり、同年四月三日第四二三四四八号第四三類菓子として被控訴人名義に登録されたものであること、ならびにその間において、古橋その代理人宮武陽男より右登録異議申立があつたが、昭和二八年三月一八日付で右異議申立は理由がない旨の決定があつたこと、が認められる。

そして、本件口頭弁論の全趣旨に徴すると、本件訴訟は昭和二八年五月二二日提起され、当初の原告は古橋そのであつたが、同人が昭和三三年五月二二日死亡したので、同人の遺言にもとずく特定受遣者として控訴人が訴訟を受継しているのであり、本件請求の態様は一貫して、前記商標登録の無効確認ならびに右登録の抹消手続を求めているのである。

しかも、控訴人としては前記登録異議申立があつたことならびにそれについては実質的な審査がなされなかつた旨の不服をいうほかには、なんら特許庁に対する他の不服申立がなされたことの主張立証はない。

ところで、商標法所定の出願、審査手続を経て、出願にかかる商標につき、設定の登録がなされた以上、ここにいわゆる商標権は創設的に発生し、その商標権者は、指定商品について、独占的、排他的にこれが登録商標を使用する権利を取得するものであつて(商標法二条、一八条、二五条、旧法七条)、その登録商標に無効原因が存在するの故を以てこれが無効を主張するものは、特許庁に対しその登録商標の無効の審判を請求し登録無効の確定審決を得て右登録商標の効力を遡及的に無効ならしめ得るのであつてかかる手続によらずして裁判所に対し登録商標無効の訴訟の訴訟を提記し得るものではないと解するのが相当である。このことは、商標法が商標権に関する事項の技術的性質にかんがみ、特許庁において登録商標の無効審査をなしうる旨の権限手続を詳細に定めていること(商標法四六条、四八条、五六条、旧法一六条、二四条)、商標法に関する特定事項の訴訟を東京高等裁判所の専属管轄と定めていること(商標法六三条旧法二四条旧特許法一二八条の二ないし五)および商標法に関する通常訴訟(例えば商標権侵害による損害賠償事件)において、特許庁において関係の登録商標の無効の審判手続が行われている場合、裁判所は必要に応じて右審判の結果がつくまで、訴訟手続を中止できること(商標法五六条、特許法一六八条旧法二四条、旧特許法八三条)などから考えて明らかである。

してみれば、控訴人の本件訴は不適法としてこれを却下すべきものとし、これと見解を異にする原判決を取り消して民事訴訟法第八九条第九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

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